ヨガに対する偏見
ある日、腰痛ブルースを抱えて座りこんでいたら、かっちゃんが「熊野へ来て川下りをしたら、そんなん、あっという間に直ります」という。
すると、アベちゃんが「しょうがない、専属マッサージ師として同行しましょう」と指の関節を鳴らす。
いや、マッサージをしてくれるなら美人ののりちゃんがいいな、というと「ヨガやりましょ、ヨガ。ヨガをやったら、腰痛ブルースなんかいっぺんに飛んでいくわ」と、のりちゃんが笑う。
というわけで、紀伊半島は北山川に、上野勝美(かっちゃん)、安部滋(アベちゃん)、杉本典子(のりちゃん)とわたくしの4人が集まったのだ。カヌーで川下りをしながら、ヨガをやろう、というわけだ。
あいかわらずの、わけがよくわからない計画だが……。
北山川は奈良県、三重県、和歌山県の三県のすき間を縫って流れている。豊富な水量、澄んだ水、峡谷から広い河原までの変化のある流れ。カヌーでの川下りに必要じゅうぶんな条件がほとんどそろっている。
この川を下りながら、気持ちのいい河原で上陸し、ヨガをやろう、という魂胆だ。
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ここで、ヨガに関する野暮な説明を少々。
ご存じ、ヨガはインド発祥の修行法のひとつだ。心と体と呼吸をまっすぐに(?)することで、心身を穏やかに保とう、という修行である。
ヨガ、あるいはヨーガと呼ばれているが、どうやら実際の発音はヨーガのほうが近いらしい(でも、ヨガのほうがいいなれているので、ここではヨガと書くことにする。あしからず)。
そして、ヨガにはいくつもの種類があるらしい(流儀なのか、派閥なのか、宗派なのか、たんなるジャンルなのか)。が、ここではくわしく書くのはやめておく。なんのことはない、よく知らないからだ。
ただ、先に白状してしまうが、僕はヨガに大いなる偏見を持っている。
体にいいことをやっているんだ、という自信ありげな姿。ほのかに匂う、宗教臭さ。地球とか大地とか太陽とかという言葉を、すぐ口に出したがるところ。そんなこんなが、僕は意味もなく苦手なのだ。鼻につく、というやつだ。
着心地はいいのだが、色が絶対的に気に入らないシャツを着ているような気分に陥るのである。
でも、心身にいいだろうな、ということは感じる。
体のリラックス加減、集中力が高まっていく脳、インナーマッスルを動かすことから出てくる汗。日々の生活の合間に取り入れればなにやら落ちつきそうだし、書きものをするときにもいいだろう。たぶん。
しかし、「健康のためのスポーツ、教養のための読書、経験のための旅」はかっこ悪い、とつねづね思っている僕には、やっぱり似合わないのだ。
「さっ、そんな七面倒なことは考えなくていいから、はい、体をまっすぐ上に伸ばして!」と、のりちゃんは、河原に降りたちマットを敷いて、さっそく呼吸を整えはじめた。
突如、河原に流れる時間がゆがみはじめる。
ちょっと神聖な気分になる瞬間である。
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