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堀田貴之のずる休み日記 「ずる休み」という言葉に、心をびっとふるわせた人。そうです。いつまでも少年の心を持ったおじさんたちは、今日もずる休みをたくらんでいます。半日あれば、半日。二日あれば、二日。一週間あるなら、一週間。一か月暇なら、……。堀田貴之が、今日もずる休みの旅に出かけます。
第五話 1月10日更新
お正月は、南の島の富士山で 円錐カルストおむすび山のブルース
それは、2億5千万年ものときと、偶然が作り出したものだ、という。
あるときは海底で安らぎ、あるときは流され、そしてあるときは岸に打ち上げられる。波に削られ、熱と氷に砕かれ、風にさらされ、すべての時代を転がりつづける。
やがて漂流を終えた一粒の有機体は、堆積し珊瑚礁の一部となる。そして、珊瑚礁は隆起して陸となり、石灰岩の台地となった。
そしてそれらは、いまではおむすびのような円錐カルストの山として、南の島にどしんと座っているのだった。
本部富士(もとぶふじ)は、そんなふうにしてできあがった山だ。
見る角度によっては富士山に似ていることから、昭和初期にその名前がつき、地元の人には親しまれている、という。本名は、目良山(ミラムイ)。標高、250.3 メートル。
富士山のわずか15分の1、という低山だ。
沖縄の人もあまり知らない小さな山だが、沖縄本島北部の本部町(もとぶちょう) にある。
これが、標高250.3メートルの本部富士である
その富士山へ登りに行こう、とゆうこちゃんがいう。
「そんな山、聞いたことがないなあ。ほんとにあるの?」と、いうと、ゆうこちゃんはその猫のような目をまん丸くして、「家の前から、毎日見てたんだから」という。
どうやら、すぐふもとに住んでいたことがあるらしい。
ね、ほんとにあったでしょ、とゆうこちゃん よし、じゃお正月は南の島の富士山へ登ろうではないか、と沖縄にやってきたのだ。
そして、そのゆうこちゃんの呼びかけに、「ほんとにそんな山があるの?」と、やはりいぶかしげに、あんちゃんととんちゃんがやってきた。
こうして、沖縄に住む三人の美女に囲まれての、低山歩きがはじまったのだ。

本部半島には、円錐カルストと呼ばれるおむすびのような形をした小さな山がいくつもある。地元の山好きたちは、いくつものカルストの小山を昔の呼び名で呼んでいる。
夕日がきれいに見える山は、ユネームイ(夕方森)。本土へ出て行く人を煙を焚いて見送った山は、ダビウクイモー(旅人を見送る森)。腰の曲がった老人にその姿が似ている山は、クシマガヤームイ(腰の曲がった人森)。と、いった具合に。

そうしたカルストおむすび山が集まる静かな山里に、『もとぶ富士』という看板を見つけた。
ほんとうにあったのだ。
はじめ僕は、サンダルで行こうと思っていた。なんたって南の島である。それに山といったって、標高250メートルだ。サンダルでじゅうぶんではないか、などと考えていたのだ。
しかし、南の島とはいえ冬は寒く、とくにこの日は、靴下と靴が必要な日和だったのだ。
これが幸いした。
カルストの山はぎざぎざごつごつ岩が特徴だ。鋭くとがった岩が多い。サンダルだったら大変なことだった。足がぎざぎざになったことだろう。
しかも、登山道は山頂へ向かってほぼまっすぐにつけられている。急斜面を登るのだ。だからそのぎざぎざの岩を手でつかんで、よっこらっしょと登ることもある。手もぎざぎざになる山だ。
靴と軍手が必携の山である。

頂上までは、ゆっくり登って40分ほど。
天気は悪いが、見晴らしはいい。近くに数々のカルストおむすび山が見える。その向こうに本部半島がぐるっと見えるし、さらにその向こうには海が。そして、瀬底島(せそこじま)、水納島(みんなじま)、伊江島(いえじま)などの島々もよく見える。
ミラムイとは、見晴らしのいい山、という意味だろうか。
ぎざぎざごつごつの岩肌を登るあんちゃん(手前)ととんちゃん
遠くに見えるひとつの山の頂上に、赤い物体が見えた。よくよく見ると、大きな四角いコンテナである。
岩肌の茶色と樹木の緑に覆われた山々に、どぎつい赤と直線が目に痛い。
どうして山の上にコンテナが……?

今年の3月、この本部富士周辺のカルスト地帯は沖縄海岸国定公園に編入される見通しだという。このあたりは世界的にも貴重なカルスト地形らしい。
しかし、ここが国定公園に指定されたら、開発などの土地利用が規制されてしまう。そこで、ジマジュウムイの山の所有者が「指定されれば自分の土地が利用できなくなる。公園の編入には反対ではないが、地主も活用できるよう規制の緩い第三種保護区の指定を求めたが聞き入られなかった」と、いわゆる『駆け込み開発』をしているのだ。
岩の凹凸の激しいカルストの山である 3千平方メートル以下の開発行為は届けの必要がないうえ、国定公園への編入前のため、法的な規制はない。国定公園に指定される前であれば、なにをやっても地主の勝手、というわけだ。
地主は、「対抗手段として、工事をつづける」といっているそうだ。
すぐとなりのソージムイという山も遊歩道などの工事が進められているらしい。
もちろん、貴重なカルストの自然を残すためにも国定公園に編入を、といっている人たちからは、大ブーイングである。
もっとも、こうしたことは後日知ったことだったが……。

南の島の円錐カルストおむすび山も、ブルースを抱えた日々を過ごしているのだった。
そんなこととはつゆ知らず、僕たちは、見晴らしのいい山頂の狭いスペースを占領して昼食である。
ゆうこちゃんは、このサイトの日本百名飯を見て、すぐにでも食べたくなった、という(ありがとう)。そして、この日はホットサンドメーカーを持ってきていたのだ。
ならば、ここでも日本百名飯である。
正月の南の島の富士山で、もちピザを作ってみたのだ。
もちピザをてんこ盛りで食べたら、おなかいっぱいである。みんな、山はいいね、という。おなかがいっぱいになれば、山でも海でも都会でも、それはそれでいいものだ。
「鹿児島のおっきな山もいいけど、沖縄の小さな山もいいなあ」と、鹿児島出身のあんちゃんがしみじみとつぶやく。
「これからは、休みのたびに沖縄の山をひとつひとつ歩いてみようよ」と、とんちゃんが元気いっぱいにいう。
いずれにしても、まずは食後の昼寝の気分である。
本部富士の山頂には、正月以上にゆったりとした時間が流れていたのだった。

ゆうこちゃんの提案で、明日も山へ行こう、と決まった。
沖縄本島最北端の辺戸岬(へどみさき)に、神々が宿る山があるという。名前は、黄金山(くがにやま)。
なんだか、2006年も輝きに満ちた年になりそうではないか。
ここにも、ア・フール・オン・ザ・ルーフが。風の強い山頂で
帰りがけに揚げたての『サーターアンダギー』と採れたての『やんばるとろろいも』を買う。やんばるとろろいもは、1個5センチほどの大きさだが、味ととろみが凝縮されている。沖縄本島北部を旅する人、このふたつを見逃しては、一生後悔しますぞ。
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