堀田貴之のおとなのずる休み

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第百話(最終回)

12月17日更新
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瀬戸内海冗談隊の横断旅(後編)
港々に、恩義あり

<1>

こんな島に住みたい!

夕方前から、雨が降りだした。天気予報どおりである。
最近の天気予報は、よく当たるのでおもしろみがない。しかも、携帯電話で最新の予報がわかってしまうから、ますますおもしろみがない。
下駄並みの確立で当たるわが観天望気を披露するすき間がないではないか。情報化社会はやっぱりつまらない。
「ちくしょう、またわが予想ははずれたな」と悔しがることができなのである。
日暮れには、雨が本格的になってきた。
でも、だいじょうぶ。
僕たちは、上陸した手島のフェリー待合室を占領しているのだ。海賊のように。

そう、僕たち瀬戸内海冗談隊はシー・カヤックで瀬戸内海を旅すべく尾道近くから出発した。東へ東へと、小豆島を目指しているのだ。
メンバーをもういちど紹介しておこう。
熊野の『くまのエクスペリエンス』(※1)の上野勝美(かっちゃん)。小豆島の『自然舎(じねんしゃ)』(※2)の山本貴道(やまちゃん)。香川の『フリー・クラウド』(※3)の小前昭二(ショージ)。彼ら3人は、それぞれがカヤック・ガイドだ。
紅一点の村松里恵(りえちゃん)。そしてわたくし。
こうした5人組だ。

朝、雨はますます強く降っている。寒い朝だ。
フェリー待合室につぎつぎと人が集まってきた。狭い待合室は満員となる。お年寄りばかりで。
丸亀行きのフェリーに乗って、四国へ買い物に行ったり、病院へ行ったり、だという。
僕たちは、来る人来る人に同じ話をする。シー・カヤックで尾道近くから出て、鞆の浦で一泊して、昨夕この島について、ここを借りた、という説明を。
この島には約40人が住んでいて、一番若い人で、50歳台だという。
ということは、昨日からかぞえると、僕たちはすでにこの島の約半数の人間に出会ったということだ。

「ええーと、あの島はなんだったかな?」などといいながら、瀬戸内海冗談隊の横断旅はつづくのであった

朝のフェリーが出発して島の人口がぐっと減ったとき、昨夕、この待合室を使っていいよ、といってくれた老夫婦が、「家(うち)へこないか」と、人数分の傘を持って誘いにきてくれた。
手島ではじめに出会った80歳にして現役の漁師、濱本満雄さん。地区の自治会長でもある。そして横にしっかり寄りそうのは、道子さん。いまでもふたりだけで船に乗り込み漁へ出かけていく、という。
シー・カヤックに乗って瀬戸内海横断だ、などと自慢げにいっている場合ではない。80歳を過ぎても現役の海人が、目の前にいるのだ。
その濱本さんが、「じつは、頼みがあるんだが……」と。
なんでも、この手島はもう年寄りばかりなので、きみたちに特別島民として島へ住んでもらいたい、というのだ。住む家も、職も、食も、ビールも準備する。なんなら嫁も見つけてやろう。
という都合のいい話ではなかった。あたりまえのことながら。

「ジャパネットたかたの通販で、カメラとプリンターを買ったんだが使い方がまったくわからん」というのだ。
それならわれわれでもできるかもしれない。
さっそく、プリンターの梱包をとき、取扱説明書を読み、線をつなぎ、とはじまったのだ。
しばらく後、なんとかプリント・アウトができたので、やまちゃんが手順を紙に書いて説明する。
1.電源スイッチ(右上のボタン)を入れる。
2.起動する(プリンターの準備がととのう)まで、しばらく待つ。
3.カメラとこの線をつなぐ(絵入り)。
4.……。
5.……。
といった具合に、やまちゃんが絵と文字でわかりやすい説明書を作りあげた。
デジタル・カメラの使い方も同様のものを作る。
「では、おとうさん。やってみてください」
濱本さんがやまちゃんが書いた説明書を手に、写真を撮り、カメラをプリンターにつなぎ、と危なげな手つきで進めていく。やまちゃんは、書き足らなかった説明を書き足していく。
そして、われわれ全員が写った記念撮影をプリント・アウトしたのだ。
「これで、正月に孫が来たとき写真が撮れる」
濱本さんはうれしそうだ。

濱本さん(左)宅で、プリンターとデジカメの使い方を説明するかっちゃん(中)とやまちゃん(右)。メーカーのみなさん。やまちゃんが作ったような懇切ていねいな説明書(絵入り。字も大きい)もつけてあげてください
で、全員で記念撮影。これをプリントアウトして、そこに全員が署名をしたのだった

その間、かあさん(道子さん)が台所で忙しそうに動いていたと思ったら、つぎつぎと食べものが出てきた。黒豆、エビの唐揚げ、鶏の唐揚げなどなどなどなど。そして、ビールも、つぎつぎと。
まだ、朝の9時である。
が、いいではないか。外は雨だ。海へ来たなら海の男に従え、だ。
「そうだ。このあいだ、いい酒をもらったんだ。これも飲め」
なんと、レミーマルタンが出てきた。
「たしかナポレオンもどこかにあったはずだが……。かあさんや。どこにある?」
この島に住もうかなあ……。

その後は、朝の宴へと突入である。三日三晩つづきそうな勢いだったが……
老漁師夫婦が引き止めてくれたけど、僕たちは島を出ることに。この写真を見るだけで、いまだに僕の涙腺はゆるむのだった
瀬戸大橋の手前には大型船の航路があり、そして、潮流の速い海域がつづくのである
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