デジタル地形図への注文
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| ■国土地理院「地図閲覧サービス」の検索画面 20万分の1地勢図の該当名をクリックすると5万分の1地形図や2万5000分の1地形図へと導かれる |
私のシミュレーションマップ・システムについて4回連続でまとめてみた。自分では、従来型の地図の「読み方」に対して新しい提案だと思っているのだが、読んでいただいた方の中には、「紙の地図」での従来型の話にしか思えないと感じることがあったかもしれない。
その連載の第1回は「距離の把握」だったが「私はだから、5万分の1地形図で育ったが、途中で2万5000分の1地形図に切り替えることになった世代といえる」と書いた。地形図の使用においては縮尺はもっとも重要な束縛条件となっていた。登山における地図扱いの熟練の多くは、その「縮尺感」に対する習熟であったといえる。
また、民間地図会社の登山用の地図が縮尺をそろえなくても使えるのは、そこに「コースタイム」という数字が入っているからだとも述べた。私もそのバリエーションとして、距離目盛りを振ることで、縮尺の制約から解放されることを知った。
そこに今、パソコンで自由に見られる国土地理院の2万5000分の1地形図が登場している。試験公開中とのことではあるが、日本全国を地形図で自由に見られるということは、衛星写真や車載パノラマ写真で市街地情報に格段の飛躍を実現したGoogle Map に匹敵する果敢な事業ともいえそうだ。
Google Map などとは比べものにならない……といいたい人もあるだろうが、試験公開中のことだとしても、私などは、プリントアウトしてみても精度が足りないという不満が大きい。紙に印刷した地図とは、線の精度がまったくちがうのだ。
もっと重要なことがある。じつはパソコンで見られる2万5000分の1地形図は縮尺の管理が十分にできない。目見当で合わせる程度のレベルにとどまってしまうのだ。スケールはパソコン画面上に出るけれど、実寸表示の調整は不可能といっていい。それならデジタル地図ではごく一般的となった縮尺の選択やズーミングができるかというと、否。ただの「地図」ならそれでもいい。しかし「地形図」となれば縮尺管理は生命線のひとつだといわざるを得ないし、デジタルマップに変身したのだとなれば、もっと自由な拡大縮小も必要だろう。
ここから話はちょっと脱線するけれど、デジタル化がアナログの既存システムを超えるための基本要素は、精度においてアナログを凌駕しなくてはいけない。カメラの画素数にしても、プリンターのドット数にしても、劇場映画のデジタル化や駅の自動改札システムにしても、情報の量や質や速度を驚くほど向上させて、オーバークォリティではないかと思わせるところまでいってから、揺り戻して落ち着いたときに、既存のアナログシステムを完全に追放することになる。
地図のデジタル化は日本ではカーナビの普及とともに急速に進んだといっていい。かつて私が海外地図情報を得ていた人が、開発初期にその方面に進んだのだが、最初は絵空事のように聞いていた記憶がある。
デジタル地図は住宅地図の分野でも進んだようだが、それがインターネット上でさまざまな固有名詞(住居表示のあるもの)と結びつくことによって、紙媒体の道路地図や分県地図などを凌駕する存在になった。
そしてGoogle Map は衛星写真をそれにかぶせた。
航空写真や衛星写真に簡単な地図情報を載せた地図はもともと緊急性を求められる軍用地図で採用されていたけれど、東西冷戦中の旧ソ連邦では国土基本図に当たるものとして整備をすすめたと聞いたことがある。
そのころ、米国では空軍の戦略航空図(100万分の1)や戦術航空図(50万分の1)を整備していて、民間航空用としても販売したので、旧ソ連邦についても米国製の100万分の1の地図なら地図店で自由に購入できるようになった。表現はふつうの地図だが、偵察衛星による写真測量の成果だと聞いた。
しかしそれも古い話になってしまった。一民間企業にすぎないGoogle が衛星写真を(極端にいえば)全世界シームレスにつなげて、飛行船で自由に飛び回って見られるかのような航空写真地図を軽々と実現してしまったからだ。
さらに今、プライバシー侵害の問題ともなっているストリートビューも、キョロキョロ見回しながら車を走らせているようなリアルな連続写真を、なんであれほど軽々と見せてくれるのか、デジタルマジックとしかいいようがない。
異業種のことになるが、かつてアナログの印刷技術システムにデジタル革命を引き起こしたのは QuarkXPress(クォーク・エクスプレス)というページレイアウトソフトだ。そこではレイアウトデザインを小数点以下3桁の精度で管理できるようになっていた。mmモードなら1,000分の1mmという信じがたい精度で位置決めすることができた。表示画面を400%にしても、もちろん見えない精密さだが、その精密さを数字で管理することによって、印刷業務のそれまでの「見当合わせ」という名人技をだれもが確実におこなえるようになった。
アナログを超えるということは表面的な精度だけではなく、システムのバックグラウンドまで含めた精度全体で凌駕しなければ、完璧とはいえない。中途半端なデジタル化は、ある日突然陳腐化するという危険をはらんでいる。
おわかりだろうか、いま国土地理院が「試験公開中」としているデジタルの2万5000分の1地形図は、明日突然に陳腐化するかもしれないような、レベル落ちのデジタル化でしかないと思われるのだ。私にはどうしても「地形図」とは思えない。では何かというと、2万5000分の1地形図由来のサンプルマップだ。
ところが私のまわりでは、そのおかげで地形図を購入する必要のなくなった人が多い。ただで見られる地形図を、わざわざ金を出して買うのはもったいない感じがする。当然、モニターで見られるものならプリントしてしまえという裏技を編み出す者も出てくる。
国土地理院のそのサービスは正式には「地図閲覧サービス『ウォッちず』」というようだが「2万5千分1地図情報」としてデジタル版の2万5000分の1地形図とは違うという含みも表現しているようだ。見せてあげるけれど、プリントはダメよ、というような半端な出し方は、私にはあまり好感が持てない。
あの閲覧サービスでは「おおよそ20万分1地勢図単位」をインデックス画面として「5万分1地形図」の図名に従ってクリックするモードが基本となっている。ほかに、もちろん、地名・公共施設名による検索、や経緯度による検索ができるので、見たい場所を一発表示することも可能になっている。
この閲覧サービスはおそらく、国土地理院が基本業務として遂行してきた国土基本図としての2万5000分1地形図(紙媒体)とそれの画像データ(0.1mmピッチで数値化)である「数値地図25000(地図画像)」の中間に位置するものと考えられる。
数値地図の0.1mmピッチというのは、1インチに換算すると254dpi(ドット・パー・インチ)だろうか。そうだとすれば、今では家庭用のプリンターでも300dpi以下というものは少ないし、雑誌のふつうの印刷精度も350dpi(175線)と考えていい。高精細印刷となれば、600dpi以上になるだろう。そういう日常的なデジタルプリントの精度と比べて特筆すべきものはなにもない。
国土地理院が紙媒体の地形図を画像としてデジタル化したのであれば、当然、一番細い線である「特0号」を線として再現できる精細さを必要とする。等高線の主曲線に使われる特0号は太さが0.08mmだから、0.1mmピッチの画像データではもちろん再現能力は完全に不足している。
国土地理院がそれでも問題視していないのは、スキャニングデータから線の中心を読みとって、メッシュ(編み目)で管理している標高データと組み合わせて、太さにかかわらないベクターデータを作成していく。それを出力するときには、線の太さを指定すればいいからだ……と思われる。
私は古い資料で見ているので、現在ではもっと進んだ状態かもしれないが、とにかく試験公開中の「2万5千分1地図情報」は2万5000分の1地形図の顔つきをしながら、似て非なるものと感じられてならない。……もしそれが本当なら、進むべき道は別にある。










