コースタイムの根拠
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| ■高水三山の伊藤式シミュレーションマップ JR青梅線・軍畑駅→高水山→岩茸石山→惣岳山→御嶽駅の行動量は、現在の書き方をすれば、車道8ポイント→登り9ポイント→稜線11ポイント→下り19ポイントの合計47ポイントとなる。8ポイント=1時間と概算すれば合計約6時間というボリュームになる。2008年4月19日に実施したケースでは9時25分:軍畑駅→12時5分:高水山→12時40分:岩茸石山→13時45分:惣岳山→16時:御嶽駅と、休憩を含めて6時間半となった |
地形図の上に距離情報(水平距離、青◇で表示)と高度情報(垂直距離、赤○で表示)を簡単に書き込めるようになって、登山道の性格がかなりはっきり直読できるようになった。
しかしそれが「時間」とはなかなか結びつかなかった。登山情報として「コースタイム」というのがあるが、結果としてどれほどの時間がかかったか、それはどのような山だったからか、という後追い情報にはできても、「予想時間」を事前に取り出す方法が見つからなかった。
ところが登山情報ではコースタイムが重要な役割を果たしている。登山のガイドブックやガイドマップを購入するのは、計画を立てる際におおまかなコースタイムを知りたいからだ。
1993年から95年にかけて毎日新聞社からほぼ月刊で28巻刊行された国立公園シリーズ『シリーズ日本の大自然』では、巻末ルポ「国立公園物語」を担当した。その第16巻「秩父多摩国立公園」で、登山のコースタイムを考えた。山は奥多摩山地の入口にあって、ポピュラーな高水三山の一周ルートとした。
シリーズ化したガイドブックの中で「奥多摩」を書名に含むものを買い集めたら以下の8冊となった。
・専業メーカーの登山専用ガイドというべきものが2冊。
(1)山と溪谷社…アルペンガイド「奥多摩・奥秩父・大菩薩」
(2)東京新聞出版局…岳人カラーガイド「奥多摩」
・地図メーカーが登山用ガイド地図にシンプルな解説パンフレットを加えた形のものが2冊。
(3)日地出版…登山・ハイキング「奥多摩」
(4)昭文社…山と高原地図「奥多摩」
・ガイド主体と地図主体の中間にあたるのが「大登山地図付」と銘打ったガイドブック。
(5)日地出版…地球の風「奥多摩 大菩薩」
・いわゆる旅行ガイドの中で「奥多摩」をタイトルにかかげたものが2冊。
(6)日本交通公社…JTBのポケットガイド「奥多摩・秩父」
(7)弘済出版社…ニューガイド・トップ「奥多摩・秩父」
・目についたものを、さらに2冊。
(8)日本交通公社…新日本ガイド「武蔵野 秩父 多摩」
(9)聖岳社…「奥多摩絵図」
高水三山のコースタイムについて、以下のようにレポートしている。
……この3つの山頂をめぐる4時間前後のコースということですが、ここでは登山用語で「コースタイム」というものをすこし詳しく見ていきたいと思うのです。
登山のコースタイムは通常、登り/下りの双方向の区間所要時間の標準/目安を示しているのですが、ここではどのガイドも本文の記述が同じ方向であることから、煩雑にならないために片方向のコースタイムだけを見ていきます。
■軍畑駅→(30分)→平溝→(1時間)→高水山→(35分)→岩茸石山→(40分)→惣岳山→(10分)→真名井天神→(50分)→御嶽駅……出典(1)
このアルペンガイドではファミリー向けコースで歩行時間=3時間45分、累積標高差580mというくくりをしています。
■軍畑駅→(30分)→平溝・高水山登山口→(1時間)→高水山→(35分)→岩茸石山→(40分)→惣岳山→(1時間)→御嶽駅……出典(2)
こちらもコースタイムの合計は3時間45分です。そして(3)(4)(5)と登山ガイド/登山マップもすべて同じコースタイムとなっています。
ところが旅行ガイドではすこし違ってきます。
■軍畑駅→(30分)→高源寺→(1時間20分)→高水山→(35分)→岩茸石山→(40分)→惣岳山→(1時間30分)→御嶽駅……出典(7)
このニューガイドトップでは合計時間が4時間35分となって、登山口の高源寺から高水山への登りがプラス20分の33%増、惣岳山からの下りがプラス30分の50%増。このことに関してはあとで考えます。
■軍畑駅→(30分)→高源寺→(1時間)→高水山→(40分)→岩茸石山→(40分)→惣岳山→(1時間)→御嶽駅……出典(8)
新日本ガイドでは合計時間が3時間50分となっています。このタイムが登山ガイドと違うのは高水山から岩茸石山の35分が40分になったということで、これはコースタイムを10分単位で表記するため、35分を40分に切り上げたと見ていいでしょう。長い登り/下りが同じ時間であるということから、時間の測り方の基準が違うとは思えません。
登山ガイドのコースタイムがどれをみても同じだと、一般の人はきっと、それが正しいと思うに違いありません。しかし私などは、そういうときこそ眉をしかめてしまうのです。これは、最初の一人をのぞいて、だれも本気で書いていない、と思ってしまうのです。
というのは、登山のコースタイムを計算する方法というのが確立されていないうえに、コースタイムは歩き方によって、歩く人によって、その日の状況によって同じではありえません。だからあくまでも目安なのです。アルペンガイド(1)の凡例にはつぎのように書いてあります。
――コースタイムは、該当コースに必要な装備一切を携行して歩いた際の、標準的な所要タイムで、休憩や食事に要する時間は一切含まれていません。――
ここで「標準的」という言葉が出てきますが、その説明はありません。そしてつぎのように続きます。
――コースタイムは体力、経験のほか、その時々の天候や体調に左右され、さらにコースの混雑度、パーティーの人数によっても差が生じます。とくに高齢の人は、本書コースタイムの5割増を目安として計画されるようお勧めします。――
ここに「目安」という言葉が出てきます。
今度は岳人カラーガイドブックス(2)を見てみます。
――コースタイムは一応の標準時間を記載した。この中には休憩時間は含まれていない。荷物の重量や天候、子供連れなどの条件により大幅に異なるので参考程度にしていただきたい。――
こちらは「一応の標準時間」であり「参考程度」とか。ついでにほかのものも見てみます。
――コースタイムは夏山晴天時2、3人のパーティー(休憩を含みません)の標準記録です。したがって休憩・個人差など考えて行動して下さい。――(3)
――コースタイムは、時期や天候によるコース状況、パーティ構成、体力または疲労度などによってかなりの差異が生じます。あくまで参考として、十分に余裕をもった山行計画をお立てください。――(4)
登山のコースタイムは人によってほとんど同じではなさそうなのに、何の根拠もないコースタイムが、ほとんどのガイドで同じというのは、手抜き以外のなにものでもないのです。
それに山のコースタイムのほとんどは「標準」などと自称しながら、登山者自身が計算(あるいは修正)できるという配慮をしていないのが片手落ちです。登山者が別の著者のガイドを手にすると、べつの「標準」を基準にしなければならないという不思議なことがおこってしまうのです。……
すでに10年以上も前の文章なので、今調べたらいろいろ違いが出てくるかもしれないけれど、ともかく「目安」にすぎないコースタイムの不思議な統一が明らかになった。
しょうがないので、それに続けて持論を展開しておいた。
……そこで、ここではひとつのモデルを提示します。それは「1km先で300m上がる」という登山道の一般的なモデル(あるいは「一般登山道」の基本的なモデル)です。この(平均)勾配は1000分の300、すなわち30%、あるいは約17度ということになります。
この登山道モデルを(とりあえず)1時間で登るというふうに決めると、登山靴やハイキングシューズなどで未舗装の平坦路(林道など)を歩く速度は毎時4kmがいいところですから、水平距離で1km歩くのに必要な時間は15分。すると1時間からの残りは45分。それで高度差300mを登るとすると高度差100mが15分という計算になります。ゆえに一般登山道での「標準的な目安」として、水平距離1km=15分、垂直距離100m=15分という目盛を用意して登山のエネルギーを時間に換算していくことを可能にしたいのです。
これは道の構造が変化するごとに、コースをどんどん細かく区切って計算していくことが可能ですから特定の部分だけの精密なコースタイムも得られます。しかし逆に、登山のように環境の変化などの外的な因子が圧倒的に大きいときには、おおづかみな概算のほうに価値があるということも事実です。そこでまず5万分の1地形図で概算してみます。
紙片に縮尺スケールの1kmの目盛を写しとって、登山コースの距離を測ってみました。私の場合は全行程の水平距離が8.5kmと出ました。登山道の実測値というのはあまりないのですが、もし実際に測ればこの数字の1.5倍以上になるのではないかと思います。その程度のいい加減な測り方ですが、精密に測っても実用上あまり意味がないのです。
つぎに等高線を見ながら登り下りの高度差を見ていきます。標高200mの軍畑駅から標高約800mの岩茸石山に登って標高300mの御嶽駅に至る8.5kmですから、登りの標高差が600m、下りが500mとなります。水平距離は8.5×15分で2時間8分。登りの垂直距離は6×15分で1時間30分となります。
下りをどう計算するかですが、山歩きの合理的な考え方としては後半に時間の余裕を残すためにも登りと同じ計算をしておいたほうがいいのですが、ガイドブックのコースタイムとの差を見たいというような場合には登りに対して下りは70%のパワー(時間)でいいと考えることもできます。すると下りの垂直距離500mは5×15分×0.7で50分となります。全部を合計すると4時間28分となります。
この方法でニューガイドトップの問題の区間を計算してみます。登山口から高水山への登りは距離が約2km、標高差が460mですから水平に30分、垂直に1時間10分で合計1時間40分と出ます。他のガイドがここを1時間としているのに対してニュートップが1時間20分としているのは、より現実的で親切だといえるでしょう。一般の人があそこを1時間で登ろうとすると大汗をかいてしまいます。
また下りでは惣岳山から御嶽駅までが距離2.5km、標高差456mですから登りを計算すると1時間47分とでます。これと比べるとおおかたのガイドではその56%を下りのタイムとしているわけです。それに対してニュートップでは84%。70%なら1時間15分となります。
最後の長い下りを早く歩こうとするとひざや腰に大きな負担をかけるだけに、初心者ほど下りに時間をかけるのが常識です。コースタイム破りにささやかな征服感を感じる自称ベテランたちにおもねず、初心者向きの現実的なコースタイムをただ一人出しているという点でニュートップの登山担当者に敬意を払います。
空中写真測量という方法で作られる現在の地形図でもっとも信頼できる情報は等高線ですから高度差の計算はきわめて正確だと考えていいのです。それに対して山道の距離計算はいい加減です、道のカーブ自体が縮尺の関係であらかた省略されていますし、測り方でも長短20%ぐらいの誤差は出ます。しかし距離情報を時間(エネルギー量)に換算したとたんに、ウエートが低くなってしまうので大きな問題にはならないのです。
そのことよりも地形図に1kmごとの目盛を入れてやることで、登山コースを一定の距離感でじっくりと見ることができるようになります。2万5000分の1と5万分の1との縮尺の違いによる図上の距離感の違いなどもまったく問題にならなくなります。
登山道がもっと急になっていくと、極端な例が、たとえばヒマラヤ登山です。そこでは距離はほとんど関係なくなって高度差だけで登山活動を管理することができます。その逆はハイキング。車でかろうじて走れそうな勾配(たとえば10%=6度)の遊歩道では、高度差はあまり大きなファクターにならないので、距離だけで運動量を管理しても問題は起きません。田舎道をあるくマーチングなどではマラソンと同様に距離だけを目安にしています。
登山コースにもアプローチ部分に林道など、勾配のゆるい部分がありますから、厳密にいえば区別して計算したいところですが、車の道は直線的でカーブも大きいので地形図ならかなり正確な距離が測れてしまいます。
このあたりのこまかな問題については朝日カルチャーセンター横浜登山教室+伊藤幸司『トレーニング不要!おじさんの登山術』(1990年、朝日新聞社)にくわしく書いてあります。……












