トップ > 毎日が山歩き > 唐松岳
毎日が山歩き 案内人 伊藤幸司(糸の会・登山コーチングシステム)  50歳を過ぎてからでも楽に山歩き、愉しく山登り、のんびり山遊びが楽しめる毎日を紹介します。
日本365名山  
第19回 唐松岳
唐松岳(からまつだけ)――2,696m
唐松岳山頂から劔岳方面を望む ― 2003.8.23
唐松岳頂上山荘のお向かいさんという感じでそびえているおにぎり型のピークが唐松岳。山頂に立つと西に劔岳が独特の存在感を見せている。
五龍岳(ごりゅうだけ)――2,814m
北アルプスには、初心者でも登れて、しかもおすすめの山がいくつかある。
双耳峰の超美形・鹿島槍ヶ岳と、大雪渓の白馬岳のあいだにある唐松岳こそ、初めての北アルプスに最適の山だ。
唐松岳といってもピンとこない人は多いだろうが、長野オリンピックのスキー競技がおこなわれた八方尾根を登り詰めたところにある。
八方尾根は標高1,850m近くまでゴンドラやリフトで上がれてしまうので、標準的な日帰り登山の登り分だけで小屋に着く。そして帰りは同じ道を、下り分だけ。
そのことによって、東京方面から朝の特急あずさでやってきて、その日の夕陽を山頂で見られるという1泊2日が可能になる。名古屋、大阪からでも同様。
しかも八方尾根は高山植物が親しげに、わかりやすく登場してくるので、ゆっくりのんびりという点でもおすすめだ。
それなのに意外に知られていないのは、唐松岳が下界から見上げる山容に特徴がない……というより、稜線上の小突起という感じ。唐松岳頂上小屋という名の山小屋に着いて初めて、唐松岳と対面するという印象になる。
登山シミュレーションマップには、それでは歩き足りないという人に五龍岳から遠見尾根を下るルートを加えたが、今回のターゲットは「初めての北アルプス」に八方尾根往復としておきたい。
なおこの地域において山名の白馬岳は従来どおり「しろうま」と読むけれど、その他の白馬は町名、駅名を含めて、ほとんどすべて「はくば」と読むようになっている。また五龍岳は国土地理院の地形図では「龍」の字を使っているが、その他はほとんどすべて「竜」の字になっている。竜が常用漢字で、龍が異体字であることから、行政地名などで竜が使われることによると思われる。
その流れでは唐松岳山頂からよく見える剱岳(2,998m)の「剱」は2万5000分の1地形図「高山5号-3 つるぎだけ」の図名としても山名としても使われている(じつは完全な同一字体ではない)が、それは常用漢字「剣」の異体字。パソコン用のJIS第1/第2水準漢字にはそのほか劍劔劒釼釼が異体字として収録されている。国土地理院の表記がかならずしも正しいとはいえないとしても、固有名詞としての山名と、その他の固有名詞の表記の混乱は山岳雑誌やガイドブックでかなりひどい状況になっている。地図つくりの現場でのエクスキュースに大きな役割を担っている「地名調書」(現地への地名確認)によって、混乱がさらに広がっていく悪循環になってしまったことを指摘しておきたい。

アプローチ
東京方面からダイレクトにアプローチできるのはJR中央本線特急あずさ3号・南小谷行き。千葉始発6:38→7:27新宿7:30→8:01八王子8:01(平日は8:02八王子8:03)→10:23松本10:27→11:27白馬となる。駅からタクシー(約1,000円)を飛ばし、ゴンドラ、リフト(片道1,400円、往復2,600円。手荷物10kg以上200円)を乗り継いで、昼過ぎには八方池山荘のある第一ケルンに立つことができる。
名古屋からの特急ワイドビューしなの3号・長野行きは名古屋8:00→9:59松本なので、松本であずさ3号に接続する。また6:00岡山始発の東海道新幹線のぞみ82号・東京行きは、→6:51新大阪6:53→7:45名古屋となるので、ここまでが当日圏内。
帰途は東京方面に直行する特急あずさ32号が白馬16:00→16:04神城16:05→17:14松本17:18→20:07(平日は20:08)新宿20:09→20:50千葉となる(白馬−松本間は運転日注意)。松本始発の特急なら、最終が松本20:02→22:37新宿のスーパーあずさ36号。同様に名古屋方面の最終はワイドビューしなの26号で、松本20:22→22:26名古屋となる。
八方尾根を下った場合には下山後の入浴や食事に困ることはないが、ゴンドラ駅から歩いてすぐのところに白馬八方温泉・第二郷の湯(TEL 0261-72-6541/12:00〜21:00/500円/火曜定休〜冬期無休)がある。檜づくりの六角浴槽の湯だ。
ゴンドラ駅の近くでおすすめの食事は、川魚料理・こいや(TEL 0261-72-2245/11:00〜14:30/17:30-20:00)で、元は鯉中心の川魚料理のようだが、そばもあって、観光客的視点からは入りにくい地元の店だ。そばもいいけれど、おすすめは特鰻重3,360円。量が多いですがいいですか? と念を押される。
白馬駅から徒歩15分(信濃森上駅から歩5分)という距離ながら、浴場とレストラン群が束になった都会派の施設がある。白馬塩の道温泉・ガーデンの湯(TEL 0261-72-6700/10:00〜22:00/600円/無休)。食事は海鮮お食事処・松の木(TEL 0261-72-4898/11:00〜14:00/17:00〜22:00/木曜定休)など。
遠見尾根を下った場合は白馬五竜テレキャビン(ゴンドラ)の山麓駅に併設されたエスカルプラザに入浴施設(600円)があるが、夏期は10:00〜16:00と終了が早いのでご注意。レストランなども同様。なおテレキャビン(片道860円)の下り最終は16:15。
山小屋の連絡先は八方池山荘(TEL 0261-72-2855)、唐松岳頂上山荘TEL 090-5204-7876)、五竜山荘(TEL 0261-72-2002)。唐松岳頂上山荘の1泊2食付き料金は8,900円。

ルートシミュレーション

この地図の範囲は国土地理院1:25,000地形図、富山4号-4(はくばちょう)、高山1号-3(かみしろ)、でカバーされる。
赤い○印は標高50mごとに置いた半径50mの円。青い◇印は山頂から約500mごとの水平距離。○印の間隔によって登山道のある斜面の傾斜を把握できる。
さらにこの地図の特長は、○印と◇印をどちらも1個(1ポイント)7.5分(2個で15分、8個で1時間)と仮定して、時間とエネルギーを概算できること。

【第19回】唐松岳
|八方尾根
■八方尾根 ― 2003.8.23
リフト終点の八方池山荘のところから尾根道を登りはじめる。見晴らしのいい日の尾根歩きは心弾む。歩いてこそという風景がゆっくりと展開していく。

 北アルプスには初心者でも登れて、しかもおすすめの山がいくつかある。双耳峰の超美形・鹿島槍ヶ岳と、大雪渓の白馬岳のあいだにある唐松岳こそ、初めての北アルプス登山に最適の山だと考えている。

 唐松岳といってもピンとこない人は多いだろうが、長野オリンピックのスキー競技が行なわれた八方尾根を登り詰めたところにある。
あのとき、男子滑降競技のスタート地点をどこにするかが環境保護とオリンピック競技

の象徴的な対立として大きな問題になった。国際スキー連盟は標高1,680mのスタート地点を1,800mに引き上げるように主張してきたのだ。
八方尾根の標高1,680mというのは黒菱平。登山シミュレーションマップをご覧いただくと、アルペンクワッドリフトの終点をスタート地点とするというのが地元の主張。それに対してグラートクワッドリフトがある分、上に上げよというのが国際スキー連盟の主張だった。
けっきょくスタート地点を上げて、途中に張り出した国立公園第一種特別地域はジャンプで飛び越すという大岡裁きに。一般スキーヤーが年間延べ60万人も滑っているスキーコースをオリンピック競技に使えるか使えないかという問題に対して、財団法人日本自然保護協会は当時、スタート地点は引き上げるべきではないという見解を発表している。

 それによると「八方尾根の1680メートル以上は、超塩基性の蛇紋岩という特異な岩石が広く分布しており、この影響を受けて成立した自然植生は、ダケカンバやオオシラビソなどの高木の樹林を欠く植物学上極めて特殊かつ重要なもの」だという。その「植物学上極めて特殊かつ重要」な景観が八方尾根の登山道を楽しいものにしている。
八方尾根から唐松岳へ登るには、ゴンドラやリフトを乗り継いで、1,800m地点より上の八方池山荘のところから歩き始めるのが一般的だ。標高約1,800mから2,600mまで標高差約800mを登るだけで唐松岳頂上山荘に着く。

 登山シミュレーションマップを見ていただくと赤い○印が間に1個分以上の空きをはさんで並んでいる。○印は半径50mのサイズなので接して並んでいる場合には100分の50(1/2)勾配(約30度)、1個分空きがあると200分の50(1/4)勾配(約15度)と見当をつけられる。日本の登山道の基本的勾配を1/3(1km先で300m登る。約20度)と考えると、それ以上の急斜面では道はジグザグを切ることが多く、それ以下なら地形なりに直登していく。
唐松岳までの八方尾根は尾根なりにゆるゆると登っていくと考えてよく、急ぎさえしなければ平地の歩き方でもなんとかなる。
所要時間は○印と◇印が山小屋までに25個あるので、8個=1時間という標準的な値をはめると3時間。山なれた人なら健脚でなくても休憩を含んでその程度の時間で登れる、と見当をつける。
ルートを割って考える場合には、八方池まで8個=1時間、丸山ケルンまで11個=1時間半(その手前に雪渓があって、涼しくやすめる)、山小屋まで6個=1時間というふうに仕切って、そこにたっぷり予備時間を加えてスピードを落としたり、のんびり休憩したりすれば、北アルプスならではの稜線歩きの楽しさを満喫できるはず。

 その3時間+αをゆっくり歩くためにも、八方池山荘のところの売店で1冊の本を買っておきたい。石原俊行『色検索・白馬八方尾根花の旅』(ネイチャーガイド104・2001年)という1,000円のハンディガイドブック。なにがいいといって、道ばたに出てくる花がほとんど100%という感じでピタリとわかる。
花がわかるから、花を見る。当然スピードが落ちる。……これがいいのだ。虎の巻を手に進むと、歩き方がやさしくなる。物理的な時間は延びるけれど、感覚的な時間は凝縮される。たった1,000円の本によるマジックといっていい(ちなみに2003年の増刷分から共著者に大谷ゆかりという名が加わったが、中味は変わっていないと思われる)。
尾瀬でも同様のことを体験したが、地域限定の花のガイドブックは近隣種との関係など考えずに、ズバリと回答を与えてくれるという点で、まさに優秀なガイドとなる。こういう本が版を重ねていくことも山歩きの楽しさを支えるインフラストラクチャーといっていい。


|往復か周回か
 北アルプスの山小屋のうちで、山頂や山稜に建つ小屋は原則として水がない。天水や雪渓の水に頼るしかないからだ。
ところが有名どころの小屋はどこも、定員オーバーの宿泊客をこなしながらシーズンを乗り切るだけの水の確保をしている。はるか彼方の沢水をポンプアップしたりしている。水がなければ商売にならないからだ。

 唐松岳頂上山荘も水が得にくい……はずなのだが、鷹沢のり子『女たちの山小屋物語』(山と溪谷社・1998)によると、女将の下川安

■唐松岳頂上山荘 ― 2002.8.7
八方尾根を登り詰めた八方ピークの裏側に唐松岳頂上山荘はある。そこからこの道を登り約20分で唐松岳山頂。北アルプスでは、シーズン中はしばしば荷揚げのヘリを見る。

喜さんは「おいしい食事と十分な水」をできる限り配慮しているという。
しかし、それどころではない。ここでは凍らしたジョッキで生ビールが飲めるのだ。2002年に初めて泊まったが、自家発電を24時間やっていた。その日は廊下にまで布団が敷かれる混雑だったが、夜の階段は十分に明るかった。

 「夜中に小屋の中で事故が起きる危険を考えたら、24時間発電にも意味があるかと思います」という説明だったが、じつはこの24時間発電は山小屋の越えたくて越えられない大きな壁と考えられてきた。発電しても使わなければ電気は消えていく。だから冷凍庫や冷蔵庫をパートタイム発電でやりくりするのが山小屋の知恵だった。
現在、収容客数の多い山小屋はヘリ空輸で荷揚げをおこなっている。客が増えたらそれに見合うだけヘリを飛ばせばいいということから、山小屋の経営が決定的に変わったのだ。人力による荷揚げには厳然として上限があった。

 その極端な例が白馬岳山頂の白馬山荘だ。宿泊定員1,500人というのもすごいが、1996年7月27日(土)に泊まった登山者はその2倍に達していた。その夜のドタバタを私はかつて著書『がんばらない山歩き』(講談社・1998年)でくわしくレポートしたが、そのとき白馬岳山頂には村営頂上宿舎と合わせて2,500人の収容スペースがあり、なんと5,000人に食事と就寝スペース(ふとんの1/4相当)を提供していた。

 唐松岳頂上山荘は収容人員350人という標準的な山小屋だが、1963年に北アルプスで初めて資材のヘリ空輸によって北館の建設をおこなっている。

 じつは、白馬山麓一帯に山小屋やスキー施設を経営している白馬館が山小屋としては白馬山荘、五竜山荘、白馬大池山荘、白馬鑓温泉小屋、栂池ヒュッテ、白馬尻小屋、キレット小屋をチェーン展開している。
白馬館は地元の旅館の息子、当時16歳の松沢貞逸が白馬岳山頂に山小屋を建てたことから始まる。1905年(明治38年)のことだった。日本アルプス各地でスポーツ登山をうながすいくつかの地元資本の動きにそれはリンクしていた。
しかし、松沢貞逸が37歳の若さで亡くなると、白馬館の二代目として積極的な事業展開をしていったのは妻の甥の下川富男だった。昭和の初めには洋風の栂池ヒュッテを建設、八峰キレット小屋や唐松小屋も新設、昭和11年には白馬岳山頂の小屋を山岳ホテルにしたという。
その下川富男が中国で戦死。戦後、妻の下川安喜が唐松小屋の経営権を譲り受けたという。白馬館グループからははずれているようにも見えるが、その精神的基盤はこちらにあるのかもしれない。電気ソケットを作り続けている松下電工と、世界的家電メーカーになった松下電器産業との関係を連想してしまった。

 ともかく、北アルプス後立山連峰の中心というべき位置で、完璧に冷えた生ビールをゆっくりと味わえる山小屋が存在する。


黒檜岳へ
■遠見尾根の稜線 ― 2003.8.24
名前のあるピークを連ねているということは、大なり小なり、ピークが遠くから認識できる程度のアップ&ダウンがあるということ。ハイキング気分の下りになるのは小遠見山を過ぎてからの終盤。

 唐松岳は健脚の登山者には縦走路の通過地点に過ぎないのではないだろうか。白馬三山から不帰ノ嶮を越えて唐松岳に、唐松岳〜五龍岳から八峰キレットを越えて鹿島槍ヶ岳へと縦走路がのびている。

 初めて北アルプスの稜線に立つ人なら、八方尾根を登って、また引き返すべきである。同じ道を引き返すという体験もけっして無駄ではないからだ。
2005年8月9〜10日にその単純な往復登山をしたのだけれど、10日の朝は激しい雨。

雨を突いて出発したところすぐに雷が近づいてきた。あわてて引き返して、1時間ほど時間をつぶしてから出直した。森林限界を越えた北アルプスの稜線は、雷がきわだって危険な存在となってくる。計画では単純な往復でも、体験的にはまったく違う道に思えることがむしろふつうだ。

 そう考えてはいても、単純な往復プランだと「もったいない」という気分がどうしても湧いてくる。こっちから登って向こうへ下るとか、ぐるりとまわって帰るとか、なんとか往復を避けたいという気持ちが先行する。おまけに「登頂」というご褒美がひとつでも増えればそれに越したことはない。

 登山シミュレーションマップには唐松岳頂上小屋に泊まって、翌日五龍岳に登頂、遠見尾根を下るというほぼ周回型ルートを呈示してある。足のそろったチームなら、日の出前後に宿を出て、なんとか最後、白馬五竜スキー場のテレキャビン(ゴンドラ)の最終に間に合うという長大なルートとなる。
できれば五竜山荘にもう1泊して……というわけにいかないのは、唐松岳頂上山荘からすぐに始まる牛首のクサリ場をはじめとして、難易度は高くないものの岩稜がけっこうある。しかも五龍岳の登りには大きな岩を乗り越え、乗り越えしていく急登がある。危険な要素はほとんどないのだが、大きな段差でスピードの落ちる人がいる。初心者が無理して行くのは、かえってもったいない。楽しい山旅をじっくり味わうチャンスを失うからだ。

 登山シミュレーションマップの○印と◇印を数えてみると、唐松岳頂上山荘→五竜山荘が18個(換算レートを8個=1時間として2時間強)、五龍岳往復18個(2時間強)、五竜山荘→アルプス平40個(5時間)と概算できる。遠見尾根は下り基調の道なのでなんとかがんばれるとして私も2回も歩いたけれど、ピーク名が並んでいる尾根道ではアップとダウンが意外にきつい。つらい思いの人がかならず出る。


「写真で見る山の歩きの魅力」 【講座19】天気予報と山の天気
毎日が山歩きトップへ
TOP

気になるトピックス

 

みんなの投稿受付中!

写真のたまり場

写真のたまり場

 
ややトク・ややとく Station50コミュニティ会員ならツアー・イベント旅行代金が5%OFF
ややトク・ややとくぽけかる倶楽部 話題沸騰! 日帰りツアー・体験イベント
モラタメ.net 壁紙でデスクトップをもっと楽しく! フレッツ光のキャンペーン実施中 全国の有名占い師やプロの心理カウンセラーと電話で相談 BIGLOBE会員情報誌『サーイ・イサラ』