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毎日が山歩き 案内人 伊藤幸司(糸の会・登山コーチングシステム)

日本365名山
第3回金時山(きんときさん) 案内人:伊藤幸司(糸の会・登山コーチングシステム)
きんときさん(1,213m)
富士山の展望を誇る山はいろいろあるが、東面のかぶりつきではこの山がベスト。
箱根火山の外輪山のひとつなのでバス便がいろいろあって、東京方面からのアプローチは便利この上ない。
この山がいま日本有数といえるのは、山頂にあるふたつの茶屋の静岡県vs神奈川県の競争による。茶屋を守るふたりの女将が夏冬問わず(ほとんど)毎日店を開けて、この山の「千回登山」など健康祈願登山を支えている。
そして山頂部をなすみごとな突起。別名猪鼻岳と呼ばれるこの急峻さが、この山を男性的な骨格にしている。金太郎伝説とつながる荒々しさも楽しめる。
金時山ひとつの山歩きなら時間的な余裕があるので、ぜひ帰途の温泉、食事も楽しみたい。そちらのバリエーションを考えたら10回登山はまちがいないところだ。
アプローチ
地図を見ると小田原駅(東海道新幹線、JR、小田急)から箱根登山鉄道があって強羅まで入るので、そこから歩くかタクシーで比較的簡単に登山口にたどりつける。
便利なのは箱根湯本駅(あるいは小田原駅)から桃源台(あるいは湖尻)行きのバスで、15分〜20分(小田原駅だと30分)間隔で走っている。箱根湯本駅から千石まで箱根外輪山の内側山麓をたどっている(国道1号線+国道138号線)ので、登るにしても下るにしても行き当たりばったりでいい。最終便のバスが午後9時前後というのも日本有数の観光地ゆえか。
富士山麓に当たるのは御殿場だから、JR御殿場線・御殿場駅と東名ハイウェイバス御殿場インター・バス停からタクシーで、という選択は応用範囲が広い。とくに東名ハイウェイバスはほぼ30分間隔であるうえ、東名御殿場バス停はインターチェンジの出口あたりにあって、待合室の向こう側は一般道路。雨に濡れずにタクシーに乗り換えることができる。
しかし、新宿方面からの金時山のアプローチで特筆すべきは小田急箱根高速バス(TEL 03-3427-3160)で新宿駅西口(小田急ハルク前)から毎時1便以上出ており、御殿場駅から東名御殿場インター・バス停経由で乙女峠、箱根仙石、箱根桃源台方面へと向かう。平日なら格安旅をゆったりと味わうことができる。
交通費で考えると平日にはJRを避けたいが、土休日には1日乗り放題のホリデーパス(2,300円)が東海道本線は平塚駅まで有効なので、片道400円の乗り越しで小田原まで行ける。関東圏からは割安になる地域が多い。そのかわり箱根名物の交通渋滞があるので、国道1号線部分のバスの利用は注意したい。
危機管理用としてのタクシー呼び出し電話は
1) 箱根湯本…… 箱根登山ハイヤー TEL 0460-5-5581、日本交通小田原 TEL 0460-5-5591
    小田原報徳自動車TEL 0460-5-5551
2) 宮ノ下…… 箱根観光自動車 TEL 0460-2-3317、富士箱根交通 TEL 0460-2-2408
3) 強羅…… 箱根登山ハイヤー TEL 0460-2-2515
4) 仙石…… ケイエム大箱根自動車 TEL 0460-4-8548、箱根登山ハイヤーTEL 0460-4-4355
5) 小涌谷…… ケイエム大箱根自動車 TEL 0460-2-3305
6) 元箱根…… 箱根タクシー TEL 0460-3-6465
7) 御殿場駅…… 御殿場タクシー TEL 0550-82-1234、箱根登山ハイヤー TEL 0550-82-0091、
    光タクシー TEL 0550-82-2777、こだまタクシー TEL 0550-82-2740、
    富士急伊豆タクシー TEL 0550-89-0276
ルートシミュレーション

この地図の範囲は国土地理院1:25,000地形図、横須賀13号-3(せきもと)、静岡1号-1(ごてんば)でカバーされる。
赤い○印は標高50mごとに置いた半径50mの円。青い◇印は山頂から約500mごとの水平距離。○印の間隔によって登山道のある斜面の傾斜を把握できる。
さらにこの地図の特長は、○印と◇印をどちらも1個(1ポイント)7.5分(2個で15分、8個で1時間)と仮定して、時間とエネルギーを概算できること。
拡大図
拡大図
【研究3】金時山(きんときさん)
足柄山、猪鼻岳、金時山
 平安中期の武将・源頼光の郎党で「頼光の四天王」に数えられた坂田公時に由来する山。かつて東海道本線が現在の御殿場線であったように、東海道が箱根峠越えになる前は足柄峠越えであった。その足柄峠から見上げると、小さいながら富士山と拮抗する急峻にしてまろやかな山が足柄山と呼ばれていた。その足柄山で山姥に育てられたという英雄伝説の公時が金時となり、金太郎となって、現在まで生誕地としての地位を確保している。もっとも全国には、金太郎伝説をもつ市町村が20もあるというけれど。
 猪鼻岳という別称がいつごろからどのように伝えられてきたのか知らないが、これはもちろんイノシシが持ち上げた鼻のかたちに由来する。
鼻っ柱
 最初にこの山に登ったのは2月26日のことだったが、こわい思いをした。仙石から登って山頂につき、いよいよ乙女峠へと下るときに急斜面が凍っていて、1か所、もし誰かが転んだらそのまま落ちる(かもしれない)という感じの場所があった。落ちたらそこはかなり高度感のある斜面で、怪我だけではすまない。10人のうちひとりでもドジったら……というふうに考えると、本当にこわかった。
 こわいと思ったのはほんの数歩のことだから、多くのひとは「ヤバいかな」という程度でどんどん通過していくだろうが、私はダブルストックと軽アイゼン、さらにはロープをどう使うか考える。たった1歩のことでも、死に至る危険を感じたら(感じなければいいのだが)リーダーは最善を尽くすという考え方をしている。
 実際に危険が生じるかどうかではなく、リーダーが感じた危険をメンバーにも感じとってもらえる希有なチャンスであり、いったん守りにまわったときに、このリーダーはこういうことをやる、という体験をしておいてもらうためだ。つまりお勉強として最高の「危険な状態」がそこにあったのだ。
 ところが残念なことに、次にそこにいったときには鉄パイプの手すりが取りつけられていた。冬なら、私たちは全員が軽アイゼンを持ち、ほぼ全員がダブルストックを使っているので、実際の危険度はかならずしも大きくならない。が、転倒したあとの危険はガードレールが取りつけられることによって事実上消えてしまった。
 急斜面は足柄峠方面に下る北斜面が(地図で赤○印の重なりぐあいでわかるように)さらにすごいが、いま、ここはアルミ階段の連続になっていて、もう危険はほとんどない。結局、冬には滑りやすい場所はいくつもあるが、小さな転倒が大きな事故につながりそうな場所は(原則論としては)ない、と考えている。
二軒の茶屋
 頂上には(元)金時娘で有名な金時茶屋と、仙石原の(元)お嫁さんの金太郎茶屋が並んでいる。この2軒の茶屋は、1年中(ほとんど)365日開いているというだけですごいのだが、両方の茶屋に登山者名簿があって、記帳すると正式な登山回数が数えられる。これがまた数百回は当たり前で1,000回が現実的な目標というクレージーぶり。なんてったって、ふたりのおばあちゃんが3年ごとに1,000回登山をクリアしているわけだから、生半可な回数ではどうにもならない。健康祈願の登山だそうだが。
 (元)金時娘は「私は金時娘なの」と語る。昭和天皇が金時娘と名付けてくださった固有名詞なので、年齢に関係なく「金時娘」なのだそうだ。「和泉流宗家」が話題になったが、商標登録みたいなものだとすれば「金時娘」でいけないわけでなはい。
 親父さんが新田次郎の『強力伝』のモデルという名門の(元)金時娘さんはテレビにも出て有名人だし、300円のみそ汁はたしかに気合いが入っている。どうしてもそちらに足が向いてしまうのだが、私などはみなさんを金時茶屋に送り込んでおいて金太郎茶屋に入ったりする。こちらは静かな会話ができる。写真の1枚には皇太子と小屋の娘さんの自然な記念写真が飾ってある。こちらも「皇室御用達」には変わりない。
 二軒の茶店の間にはなんとはなしに火花が散っているやに思えることがあるのだが、それは当然のこと。(元)金時娘は駿河の国、仙石原の(元)お嫁さんは相模の国を背負っている。そのことは小屋の裏側をのぞいてみるとよく分かる。トイレもあるが、荷揚げのケーブルが張ってある。それがそれぞれの小屋にあって、駿河の国と相模の国へとのびている。高齢の域に達した女性の切り盛りにしてはボリュームのあるものが食べられるのはケーブルによる荷揚げのおかげだ。すなわちふたりは空身で登ってくればいいのだ。
 それにしても、登山のフィールドとしての山は山小屋によって開かれた例が多い。現在の金時山はこのふたりの元気なおばあちゃんたちのライバル意識によって、年中無休の健康登山がサポートされている。
温泉と食事
1)御殿場側
 御殿場側に下るのであれば中腹にあるごてんば市温泉会館(TEL 0550-83-3303)に行きたい。
10〜21時、月曜定休、500円というありふれた公共の日帰り温泉なのだが、湯船の窓枠がナマの富士山の額縁になっている。晴れた日には絵に描いたような富士山だ。乙女峠から御殿場方面へ下るバスがあれば、温泉会館前バス停から徒歩5分。御殿場駅からタクシー約1,500円。
 御殿場に出たら食事はいろいろあると思うが、私はシチューのれすとらん力亭(TEL 0550-83-0362)をすすめたい。駅から歩いてもいける距離だ。

2)仙石原
 仙石原に下れば、そこも当然温泉地帯。大川橋バス停のところにあるホテル・マウントビュー箱根(TEL 0460-4-6331)は団体客を受け入れる大型ホテルながら、日帰り入浴可能(10〜21時、900円)。源泉の、いい風呂が地階にある。山靴の場合、踏み込む前に玄関からその旨伝えて、スリッパなどに履き替える心遣いがほしいところ。フロントとロビーの間を通り抜けていくから。
 さらにバス停ひとつ奥の仙郷楼前バス停近くには、日帰り入浴の湯遊の里・南甫園(TEL 0460-4-8591。10〜19時、1,000円、水曜定休)がある。きちんとした食事ができるので、あとは帰りのバスに飛び乗ればいい。新宿行きの小田急箱根高速バスを利用するときに便利。
 そのすぐ奥に、日帰り入浴を受け付ける箱根温泉山荘なかむら(TEL 0460-4-6012)がある。時間は明記されていないが電話は夜10時まで通じるとのこと。入浴1,000円、休憩付きで2,000円。一度食事を頼んだらご主人みずからのかなり個性的な天丼が登場した。湯は源泉掛け流しの濁り湯で、水をいっさい入れないとのことだったが、箱根の泉源はいろいろ問題があるので現在も湯量・湯温とも安定しているかどうか。

3)箱根湯本
 帰りの便利さで考えたら箱根湯本まで出ておくに越したことはない。日帰り入浴はいろいろあって、大型日帰り入浴施設としては天山(TEL 0460-6-4126。9〜23時、1,200円、無休)がある。古くからのものでは弘法の湯(TEL 0460-5-7667。9〜21時、950円、無休)があり、ホテル・旅館由来だと湯蔵(TEL 0460-5-5791。11〜21時、1,000円、水曜定休)や早雲足洗いの湯・和泉(TEL 0460-5-5361。11〜21時、1,200円、火曜定休)あたりか。
 しかし、山帰りで箱根湯本は初めてという人には、駅背後の急斜面の上方にあるかっぱ天国(TEL 0460-5-6121)を是非にとすすめたい。10〜22時で入浴料は750円、年中無休で、洗い場設備の不十分な露天風呂のみという野趣に加えて、格安の鉄板焼きなど、山の帰りにはドンピシャのムードが箱根で味わえるなんて、という感じ。1度はぜひ。
 箱根には食事どころもいろいろあるはずで、富士屋ホテルという決定版ももちろん選択可能だが、たまたま湯蔵で風呂に入り、食事ができないというので入った向かいの洋食店、グリル・ハイツ(TEL 0460-5-5377、10〜20時)は2,000円のビーフシチューセットが名物らしく、家庭的で好ましかった記憶がある。

4)小田原
 帰りの自由さを考えると、新幹線にも飛び乗れる小田原に出ておくというルートもある。駅前の堀端に万葉の湯(TEL 0465-23-1126。10時〜翌朝9時、2,400円、無休)があるが、長時間滞在型で入浴だけでは高価すぎる。そこで小田原駅からタクシー代約1,350円を出してスーパー銭湯・湯快爽快・さかわ(TEL 0465-45-4126)へ行くことになる。こちらは10時〜深夜2時、630円(平日100円安)、無休となっている。帰りもタクシー代が必要なので2人でトントンだからバスをうまく使いたいところだが。
 小田原では、往路バスに乗り換えるときなどは、走って30秒の守屋製パン(TEL 0465-24-1147)で名物のあんパンや、昔懐かしい食パンにバター、ジャム、クリームなどお好みのものを塗りつけてもらう楽しみ(ぐずぐずしているとおねえさんたちがちょっとこわいけれど)がある。古いそば屋ということでは駅のそばの寿庵(TEL 0465-22-2862)で、北條そばという手がある。
 古いということで魅力なのは駅から徒歩7分ほど、市民会館前の料亭だるま(TEL 0465-22-4128)の本店食堂の建物が在りし日の繁栄をしのばせつつ、格安の天丼などを楽しめる。新しいところでは魚屋の上をレストランにした魚國海席(TEL 0465-24-1186)がちょっと高級。
 小田原駅前の飲食店街ではラーメンの名店がいろいろあるとも聞いたが、私の守備範囲からはずれているので、コメントできない。私が山の帰りに定番にしているのは駅前広場の一角にある大衆割烹の天金(TEL 0465-23-0261)で、小田原名産ともいうべきアジ寿司がまずはおすすめ。次いで冷や奴。箱根湯本ホテルの系列とかで、一時期若い支配人気取りが仕切ったときには終わりかなと思ったけれど、じいさん板前たちが老後の一暴れという感じで調理場を占拠している感じが味に出ている。大人数のときには2階に広間がある。
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