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毎日が山歩き 案内人 伊藤幸司(糸の会・登山コーチングシステム)

日本365名山
第2回奥久慈・男体山(なんたいさん) 案内人:伊藤幸司(糸の会・登山コーチングシステム)
なんたいさん(654m)
標高わずか654mの低山で、しかも首都圏からの日帰りはちょっと無理というロケーションにありながら、くり返し行きたくなる、不思議な山。
関東地方では珍しく自然河川の趣を残した久慈川の上流部にあって、その河谷を縁取る断崖のきわをたどる登山道が袋田の滝まで続いている。
山は小さいが、その稜線が新緑と紅葉を堪能させてくれる秀逸なルートとなっている。
ルートシミュレーション
 
水戸からJR水郡線で袋田まで約70分。西金は2つ手前。袋田の次は常陸大子で大子温泉がある。ただし水郡線の運転間隔は1時間前後。 奥久慈・男体山 マップ
タクシーは大子駅起点として、茨交県北バス・大子合同タクシー TEL 0120-550867 TEL 02957-2-0055、滝交通タクシー TEL 02957-2-0073、本田タクシー TEL 02957-2-0224があり、袋田駅前には茨交県北バス・袋田タクシー袋田駅案内所 TEL 0120-560867 TEL 02957-2-2835がある。
 
ルートシュミレーション
 
この地図の範囲は国土地理院1:25,000地形図、白河12号-1(ふくろだ)と白河12号-2(おおなかしゅく)でカバーされる。 
赤い○印は標高50mごとに置いた半径50mの円。青い◇印は山頂から約500mごとの水平距離。○印の間隔によって登山道のある斜面の傾斜を把握できる。
さらにこの地図の特長は、○印と◇印をどちらも1個(1ポイント)7.5分(2個で15分、8個で1時間)と仮定して、時間とエネルギーを概算できること。
   
研究2 奥久慈・男体山
個性的な稜線
 標高わずか654mの低山で、しかも首都圏からの日帰りはちょっと無理というロケーションにありながら、この山へはくり返し行きたくなる、不思議な山だ。
 今回地図を作ってみて気づいたのだが、男体山から月居山までの長い稜線の久慈川側(西側)がず〜っと切れ目なく切り立った崖になっている。反対側(東側)には足下に牧場があったりゴルフ場が見え隠れするなだらかな斜面なので、登山ルートそのものはスリリングな岩稜というわけではないけれど、木の間越しに見える風景にシャープさがある。高度感が増幅されている。
 地図上ではほぼ一直線に見える稜線だが、小さな起伏を繰り返すあいだに山腹を巻いたりするから、深い山に迷い込んだような演出にもなっている。振り返ると、どこをどうたどってきたのかちょっと分からないほど、道は変化に富んでいる。それでいて片側がず〜っと崖になっているので、妙な支稜線に迷い込む危険がない。長い稜線なのに道迷いの心配がほとんどないのだ。安心してロング・ウォーキングを楽しめる秀逸なルートといえる。
四度の滝、四度の山
 北のはずれに位置する袋田の滝は全国区の有名観光地で、4段滝であることから「四度の滝」といわれるが、新緑と紅葉に加えて氷結した冬の風景もいいとされ、四季を通じて楽しめるという意味もあると宣伝されている。  その袋田の滝から全貌を眺めるべく遊歩道を登っていくと(観光客にはかなりのハードワークになるだろうが)階段の道を登り切ったところが月居山。かつて山城が築かれていたという。現在はその下を月居トンネルと新月居トンネルが通っているので、そちらへ下るとちょっとしたハイキングとして楽しめる。
 月居山からの眺めには男体山はない(だろうと思う)。久慈川を右手に見ながら南にのびる稜線をなぞってみても、小さなピークの連なりのどれが男体山か判然としない。
 ふつうなら樹林の中に埋もれてしまうローカルな山道なのに、河谷からそびえる断崖に沿っていることから特異な個性を獲得した。そして同時に、そういう特異な稜線だからだと思うが、自然林が残されていてず〜っと続く。  袋田の滝が新緑と紅葉の名所なら、稜線もまた新緑と紅葉の美しいところで、それが男体山まで続く。久慈川に沿って走るJR水郡線の車窓から見上げれば、その緑の稜線がスカイラインを構成しているというわけだ。
 さいわいなことに、男体山もまた新緑・紅葉の魅力を存分に残しながら、山城のようにそびえている。 .
男坂・女坂
 ルート南端の男体山は、山頂に立つと足元から驚くほどおおらかな風景が広がっている。それがなにと似ているかいろいろ考えたのだが、昔東京タワーができた頃、展望台からながめた東京の屋並み。街がまるで海のように広がっていた。ここでは森が海のように広がって、よく見れば水戸あたりのビル群もある。筑波山との位置をはかりつつ考えれば、東京が見えて、富士山が見える日を期待してもいいはずだ。麓の集落から一気に標高差約400mは、関東平野を一望にする――という印象のすばらしい展望台となっている。
 しかしまた、麓からこの山を見上げれば、それは堂々たる岩山で、集落風景とおりなす風景は絵画的といえる。男体山が小さいながら多くのガイドブックに選ばれているのも、この山麓からの姿によるのではないかと思う。
 最初の時、男坂と女坂の分岐でもちろん女坂を選んだ。大円地越を経由する登りもなかなかの急勾配だが、その後は男坂を登っている。こちらは急でクサリもついていたりするけれど、最後まで樹林に覆われているので危険を感じる場所はほとんどない。急勾配に弱い初心者にはちょっとつらいという感じだろうか。それでも、見上げた山をまっすぐに登り切るという気分は捨てがたい。
滝と岩山……どちらから、どちらへ?
 登山道は登れれば下れる、下れれば登れるというのが私の基本的な考え方で、同時にそれはどちらから登っても、どちらへ下ってもいい、という自由を前提にしている。ただ、このルートでは過去4回、全部男体山から登って袋田の滝へと下っている。5回目はどうしようかと考えているところだ。
 ひとつの山に何度も出かける場合には、いろんな方向から登り、いろんな方向に下るという体験が好ましいと思っている。同じルートも登りと下りでは印象がガラリとちがうことが多い。
 しかし私の場合にはひとを連れての山歩きだから、初めて登るひとの体験を尊重しなくてはならない。そういうひとの目でシミュレーションしてみると、大円地集落から見上げた男体山に登ってひとつの区切りをつけ、稜線歩きを楽しんだ後、渓谷に下っていくとしだいに袋田の滝が見えてくるという三部構成がいくぶんかドラマチックに思えるからだ。最初に奥へと入り込んで、表の世界へと出てくるという筋書きになる。
 しかし決定的にそれがいいとは思っていない。表玄関の袋田の滝から最奥の男体山までたどったら、裏口からするりと抜け出られたという筋書きも十分に魅力的ではある。
 そのことは、いわゆるアプローチの問題ともからんでいる。山を下って風呂に入って、駅へという最後のところを考えると、袋田の滝から観光客の流れに乗って滝本の集落に出ると、食事もできれば日帰り入浴もできる。バスかタクシーで駅へ出られる。下山後の選択肢をできるだけ多くしておくと、なんらかの理由で時間が遅れた場合にも、入浴時間や食事時間を予備時間として使って帳尻を合わせることが可能になる。
 最初はだから、水郡線の途中、金砂郷村でそば祭りを見学、夕方、西金駅で下りて湯沢温泉に泊まり、翌朝、約3kmの一般道路を歩いて大円地へというアプローチをとった。前日の足慣らしを日立の高鈴山にしたり、大子町北端の八溝山にしたりしたが、宿も大子温泉にして、タクシーで大円地まで(約5,000円)という手法もとった。このあたりのタクシーの起点は袋田駅か大子駅になるので、どこからでも自由自在に使えるというわけにはいかない。
観光+登山
 残っているのは袋田温泉に泊まってダイレクトに登り始めるというパターンだから、歩く方向が逆になるという意味も含めて体験してみたいと考えている。
 しかしもっと広い視野で考えれば、前日に体験できるものはいろいろある。たとえば久慈川は関東有数の鮎の名所。釣りもできるが簗場もある。また下流にはカヌーの楽しめる場所もある。上流にはいまや全国的に有名な福島県矢祭町がある。合併を拒否して町全体で革命的な構造改革をすすめている。
 さらにはアンコウ鍋が名物の北茨城や、もっと手前には水郡線の起点となる水戸もある。宿泊可能地域も広い。上野発22:30の常磐線特急最終列車に乗ると23:52に水戸に着く。そこで前泊すれば限りなく日帰りに近いスケジュールも組める。
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