◇1975年録音(この項、案内人・船木)
◇1997年録音
◇1998年録音
バロック期のイギリスを代表する作曲家ヘンリー・パーセルは、幼少期からリュリを主とするフランス音楽の手ほどきを受け、ジョン・ブロウ、マシュー・ロックなど、当時の英国の大物音楽家たちに師事した後、1680年からは劇音楽、続いてオペラの作曲に着手する。1691年に作曲された「アーサー王」は「ダイドーとエネアス」(1689年)や「妖精の女王」(1692年)と並ぶ代表作だ。パーセルの特異性は、フランスやイタリアの当時最先端の音楽様式を自作の中で完璧に消化していながら、一度も英国を離れることなく、エリザベス朝音楽の代表としての存在を確立させた「オルフェウス・ブリタニクス」(英国のオルフェウス)となったことである。そして21世紀の「オルフェウス…」を具現化したのがエルヴェ・ニケによる録音だ。アルフレッド・デラー(1978年録音)の演奏を規範としつつも、心血を注いで育てたアンサンブル、コンセール・スピリテュエールとともに、ヴェロニク・ジャンスをはじめとする生きのいい旬の歌手たちを集めて、作曲当時のパーセルがそうであったように、フランスのエスプリを注いで、ニケらしさを爆発した演奏に結実させた。アーサー王伝説そのものから現在に至る、英仏の不思議な愛憎関係が聴こえてくるような名演・名録音だ。
◇2003年録音
数多くある「トゥーランドット」の名盤の中でも、ゆるぎないトップの座を維持しているのが、カラヤンとウィーン・フィルによるこの盤である。録音面でも、デジタル導入初期のドイツ・グラモフォンが全力を注いで制作したサウンドの極みであり、現在まで全く古さを感じさせない活きの良い音質が保たれている。よくぞ集めたりの豪華キャストを、ひとりとして無駄に歌わせることなしに活用して、作品の全体像もクリアに見透せる見事なバランスを創り上げたカラヤンの手腕に、いまさらながら驚かされる。やっぱりカラヤンは凄い指揮者なのだ。「三大テノール」ではパヴァロッティの十八番となり、最近ではフィギュア・スケートのテーマ曲のようにも認知されている、名アリア「誰も寝てはならぬ」を歌うのは、まだ若々しく艶のある美声のドミンゴだ。リッチャレッリ、ヘンドリックス、アライサといった歌手たちの歌唱も、それぞれのベストに数えられる素晴らしさで、聴くほどにゾクゾクしてしまう感動作である。 「トゥーランドット」の物語は「謎かけ姫物語」として分類される伝承の系譜で、求婚者たちに無理難題を課して次々と首をはねるというもの。ウェーバー、ブゾーニなど競作も多かったが、プッチーニは敢えて作曲を決意、最後にして未完の傑作となった。1998年、チャン・イーモウの演出で、ズービン・メータ指揮により北京・紫禁城内の特設ステージでの上演が話題となったのも記憶に新しい。
◇1981年録音
演奏と録音の両面でめっぽう楽しめる稀有なディスクだ。「サロメ」はR.シュトラウスがオペラ作曲家としての名声を確立させた問題作であり、新約聖書マタイ伝のサロメをオスカー・ワイルドが戯曲化したものを底本としている。独立した管弦楽作品としてもポピュラーな「7つのヴェールの踊り」に象徴される、官能性の表出がウリだが(実際初演は大成功を収めたものの、不道徳とのレッテルを貼られて一時は上演禁止にもなった)、その緊張感と辛辣な心理描写はオペラという表現様式に革命をもたらした。 演奏面では録音時点でのベストと思われるキャスティングを実現させて、その中から見事なアンサンブルによるドラマを築き上げたカラヤンの手腕に感服。ウィーン・フィルの比類ない美質をこれでもかと聴かされる快感にも酔いしれてしまう。録音の優秀さは特筆モノで、音の深み、音声の奥行き、適切なダイナミック・バランス等々、最新のオーディオ機器で再生しても破綻をみせない見事さだ。録音会場はウィーン・ゾフィエンザール。デッカへの謝辞と共に同レーベル・スタッフのジェームズ・ロックがクレジットされていて、カラヤンの政治手腕にも感服!!
◇1977,1978年録音
冒頭の序曲から心地よい音楽のシンコペーションに酔わされるうちに、自然に物語の世界に引き込まれてゆく。 ウェーバーのドイツの森ではなく、確実にシェークスピアの世界だ。演ずるガーディナーは英国人、歌唱もオリジナルの英語詞であり、おまけに英語のナレーションまで加えられては、空気は完璧なまでにシェークスピアなのである。 ヴィーラント作の叙事詩をベースに、「真夏の世の夢」にも登場する妖精の国の王、オベロンの物語をコヴェントガーデン・オペラのために作曲した作品であり、オリジナルは英語版で完成されたものだったが、完成直後にドイツ語版に改められていた。ガーディナーの功績は、オリジナル版の響きを復元させたこと(言葉が変わっただけでも音楽としての響きは別物)に加えて、元来支離滅裂な物語の展開を、ガーディナー自身の編集によるナレーションを加えて、すっきりさせてオペラ全体に新たな光を当てたことにあろう。2002年にロンドンとパリでの演奏会形式の上演を経て、ワトフォード(ロンドン)で収録された。
◇2002年録音
ヤーコプスにとって2度目の録音となるグルックの代表的オペラ作品で、手堅い解釈の上に自在な歌唱表現が展開される秀作録音となった。ヤーコプスの初録音は、カウンター・テノールの第一人者としてオルフェオ役を歌ったもので、シギスヴァルト・クイケン指揮ラ・プティット・バンド初のオペラ録音でもあった。テレコムC4・ノイズ・リダクションとナグラ製テレコを組み合わせての巧みなアナログ録音で、古楽器特有の響きが堪能される演奏と録音であった(Accent/1982録音/廃盤)。 近年躍進が著しいフライブルク・バロック管を指揮しての録音では、オルフェオをメゾ・ソプラノに歌わせるなど新たな試みも多く、細部に至るまでヤーコプスらしい配慮に満ちた歌心が、この革新的オペラの本質を蘇らせてくれた。1762年ウィーン版、オリジナルのカストラートをテノール歌手に置き換え、楽器やバレエを追加してオペラ座の舞台の要求にあわせた1774年のパリ版、さらにはJ.C.バッハからベルリオーズ、サン=サーンスといった名だたる作曲家たちが、それぞれの時代の趣向に合わせた編作を試みた版が登場しているのも、物語のテーマの普遍性と共にグルックのオリジナル・スコアの素晴らしさを証明するものであろう。そしてヤーコプスの手による演奏では、これまでの時代的変遷の垢を洗い流して作品本来の姿が生命力に溢れて語られているのである。
◇2000録音
英デッカの伝説的プロデューサー、ジョン・カルショウが、その伝説の礎となったワーグナー「指環」プロジェクトと前後して完成させた録音がこれであり、随所に「指環」をも凌駕するような録音芸術としての存在感と主張が感じられる。またカラヤンとウィーン・フィルという組み合わせが、音楽表現上のある種の理想形を示すものであることの証明でもある。ウィーン・ソフィエンザールで収録された最初のイタリア・オペラとして、カルショウの録音チームは、併設の小さなホールにいたるまでの施設全体をフルに活用して、「アイーダ」の内包する壮大でバラエティに富んだ空間表現の具現化に成功した。有名な凱旋シーンのくっきりとくま取りされた金管の輝き、大合唱とソロの歌声の明瞭なセパレーション、弦合奏の大きなうねりと倍音の広がり、そしてそのすべてを自在に操り展開させるカラヤンの棒さばき、オペラ録音の醍醐味がすべて凝縮されたディスクである。
◇1959録音
イタリアのオペラ作曲家カタラーニは、プッチーニと同じ町(ルッカ)に生まれて5つのオペラを作曲、39歳でミラノに没した。プッチーニより4歳半年長だったカタラー二の最後の作品となったのが「ワリー」であり、もしもこのまま活動を続けていたならば、そのライヴァルの存在を脅かしたであろう才能の持ち主である。19世紀初頭のスイス・チロル地方を舞台に、村の狩人ハーゲンバッハと地主の娘ワリーの悲しい恋の物語を、「天使の歌声」と形容されたテバルディと名手デル・モナコが歌い上げた決定盤である。クレヴァは録音当時66歳のイタリアの職人指揮者で、モンテ・カルロ歌劇場のオーケストラを率いて淀みのない上質なドラマ展開をしている。ふたりの歌手の至芸と共に、デッカの録音エンジニア、ケネス・ウィルキンソンの自家薬籠中といえる、今も色褪せない絶妙な録音バランスとクレヴァの演奏バランス、両者の職人芸が聴けるのもこのディスクの楽しみだ。
◇1968録音
ワーグナーをピリオド楽器、つまりワーグナーが1841年に本作を初演した当時の楽器を使用して再現するという、理屈には合っているものの、一歩間違えればただのこけおどしに終わるアイデアに本気で取り組んで、見事な成果を収めた録音。いわゆるワグネリアンの求める要望や願望の具現化というステレオタイプから離別して、作品の本質に新たな角度から切り込む意欲的な演奏だ。カペラ・コロニエンシスはケルン放送に属するドイツ古楽器オケの雄で、その性格上編成もフレキシブルな団体。ヴァイルはアバドやシノーポリを育てたスワロフスキー門下で、世界の主要オケへの客演歴はもちろんだが、カナダの古楽器グループ、ターフェルムジークとの一連の録音で評価を高めた。多彩な声楽陣を含め、総体としてのバランスに配慮が行き届いた新鮮な演奏&録音だ。
◇2004録音(ライヴ)
「音楽史上最初の本物のオペラ」とされる元祖が「オルフェーオ」。近年は演奏譜や楽器奏法の研究が進んだ恩恵を受けて、古楽器による演奏が定着した。オリジナルに近い(と思われる)サウンドによる現代に通用する演奏で古いスコアが蘇った。主要なオペラハウスでの上演に加えて、CDを通しても興味深い演奏を身近に聴くことが出来るようになったのである。自らが主宰する合唱団にモンテヴェルディの名を冠したほどのガーディナーの録音は、1980年代、イギリスが世界のピリオド楽器演奏をリードしていた時期にベストメンバーが集められての充実した演奏が聴ける。優秀な録音と相俟って現在も通用する同曲のベスト盤である。
◇1985年録音。
モーツァルトの天衣無縫な天才ぶりが、いかんなく発揮された傑作オペラ。全曲を通して聴くとその素晴らしさはさらに何倍にも膨らむ。ド・ビリーのディレクションを得て見事なまでの変身を遂げたオーストリア国営放送(ORF)の専属オーケストラに、ウィーンを中心に活躍するヴェテランと若手が集った歌手たちがバランス良く配置されて、オペラの愉悦が生き生きと伝わってくる。このフランス人指揮者の絶妙なタメと歌心は音楽を彫りの深い立体的なものにして、心地よいスピード感でぐいぐいとドラマの世界に引き込まれてしまう。これが廉価盤の3枚組、フルプライス新譜1枚分の出費で入手できてしまうのである。BMG系列の真っ当なレコード会社と、ORFの共同制作により、録音の活きもすこぶる良い。
◇2001年録音。
ワーグナーの大作、楽劇4部作「ニーベルングの指環」〜楽劇「ラインの黄金」、楽劇「ワルキューレ」、楽劇「ジークフリート」、楽劇「神々の黄昏」〜の長大な全曲録音から聴き所を上手く編集したハイライト盤2枚組。ショルティとウィーン・フィルによる歴史的な金字塔であり、英デッカの伝説となったプロデューサー、ジョン・カルショウの一世一代の大企画が具現されたものだ。業界では誰もが否定的だったプロジェクトをカルショウとショルティが両輪となって推進し、当時はEMIの陰の存在に過ぎなかった“弱小”デッカが、社運を賭けてその録音技術の粋を注ぎ込んで実現させた、いわば英国版“プロジェクトX”。結果は、現代でも通用するアナログ・ステレオ録音の最良の成果として、録音と演奏の両面でファースト・チョイスとしての評価を維持し続けている。
◇1958、62、64、65年録音。
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